ブログ:「言葉の影響1」で、
自分の「性格」を変える一番簡単な方法は、自分の「“口癖”を変える」ことである。
という“ことわざ”を提案しました。
ところが、この“ことわざ”どおりに実践した人の中に、自分自身を「うまく変えられた人」と、「まったく変えられなかった人」がいらっしゃるようです。
今回は、この“違い”がどうして起きるのか、また、それをどうすれば改善されるのかについて、「架空事例」を通して考えてみましょう。
今回のブログは、ストーリー仕立てにしてみました。
ご一読頂ければ、うれしく思います。
「相談室」にやって来た“3人”。
ある中学校の昼休みのことです。
そこに勤務するスクールカウンセラー(SC)が相談室に居ると、生徒が訪ねて来ました。

昼休み中ですが、大丈夫ですか?

今の時間はカウンセリングの予約が入っていないので、誰も来ませんから大丈夫ですよ。空いていますから、どうぞ、お入りください。
SCがその男子生徒を招き入れると、他に生徒が二人、一緒に相談室に入ってきました。

あの…。僕は2年の夏目と言います。あと、こちらが同じクラスの樋口さんと芥川くんです。

こんにちは! 樋口と言います。

僕は、芥川です。一緒に来てしまいました!
3人ともハキハキとしていて、明るい感じの生徒なので、SCはどうして3人が来室したのか、理由がよくわかりませんでした。
しかし、とにかく来談の趣旨をじっくり話を聞こうと思って、SCは3人に着席を促しました。

どうぞ、そこに座って下さい。
改めまして、こんにちは。私がSCです。
相談室に来てくれたのは、今回が初めてですね。5時間目の授業が始まるまで、まだ30分くらい時間があります。
どんなことで来てくれたのか、お話できるところから、聞かせてくれませんか?

はい。じゃあ、僕の方から話します。
SCはブログを書いてますよね。僕たちそれを読むのを、いつも楽しみにしているんです。
そのブログの中に『性格を変える一番簡単な方法は、口癖を変えることである』と書いてあるのを目にしました。
それで、「これ、面白そうだから、やってみよう!」と僕が提案して、樋口さんと芥川くんの3人で、これをやってみることになったんです。
ところが、その後しばらくたっても、僕には何の変化も起きなかったので、2人に「あの“口癖”を変えるやつ、やってみてどうだった?」と訊いたんです。
そしたら、2人は「結構、よかったよ」って言うんです。
それで、「どうして自分だけ効果がなかったんだろう?」と疑問に思って、「SCに聞いてみよう」と言うことになって、二人を誘って、今日は訪ねて来たのです。
夏目くんが打ち明けてくれるのを聞いたSCは、

SCのブログを読んでくれて、ありがとう。
早速、実際に『性格を変える一番簡単な方法は、口癖を変えることである』を試してくれたのですね。
とても嬉しですよ。
でも、夏目くんだけがうまく行かなかったのですか。
夏目くんとしては、ショックだったでしょう。
それに、「どうして自分だけがうまくいかないんだ!」と、腹立たしく思ったのではないでしょうか?
SCの返す言葉に、夏目くんは深くうなづきました。
3人が選んだ「“口癖”の言葉」は…?

ところで3人は、どんな「口癖の“言葉”」を言ってみることにしたのですか?
SCが3人に尋ねると、芥川くんが、

これから自分たちは、いろいろなことにチャレンジしていかなくちゃならなくなるので、そういう時に、「やればできる!」と言ってみるのがいいんじゃないかと提案したんです。
そしたら、みんなも「それがいい」と言うので、この言葉を自分たちの“口癖”の言葉にしたんです。
と話してくれました。

樋口さんと芥川くんの二人は、変化があったのですね。
実際、この「やればできる!」を口癖にしたら、どうなったのですか?
と、SCは2人に尋ねてみました。
すると、芥川くんが、

今までだと、何かにチャレンジする前に、どうしても不安な気持ちになっちゃったり、自分にはできないかもしれないと怖気(おじけ)づいちゃったりして、前向きに取り決めなかったんです。
ところがこの“口癖”を言うようになってからは、とにかくやってみようと言う気持ちになれました。
それに、実際、身体もそのように動くようになったのです。
と、嬉しそうに話してくれました。
樋口さんも、

私も以前は、やらなければならない課題があったときに、どうしてもすぐにそれに取り掛かれず、先送りしてしまいがちでした。
でも、自分自身に対して「やればできる!」と言い聞かせるようになってからは、わりとすぐに、その課題に取り組めて、提出期限ぎりぎりになるまで課題をほっぽっておくことがなくなりました。
と打ち明けてくれました。
へこんでしまった夏目くん。
2人の話を聞いていた夏目くんが、ちょっと気落ちしていることに気づいたSCは、

夏目くんも同じように「やればできる!」を口癖にしたのだけれど、自分だけうまくいかなかったのですから、へこんでしまうのも、決しておかしなことではないですよ。
と、夏目くんをなぐさめました。
夏目くんは少し気を取り直して、再び話し出しました。

そうなんです。自分も「やればできる!」と言う“口癖”を、いろいろな機会に、声に出して言ってみたりしたんです。
樋口さんと同じで、何か課題が出されて、それに取り組まなければならないときに、「やればできる!」と自分に言い聞かせてみたりしたんです。
でも、樋口さんと違って、相変わらずすぐに課題に取り組めず、やらなければならない課題を先送りにしちゃって……。
結局、課題にすぐに取り組めない癖は、ちっとも治らないままなんです。
と言って、夏目くんは本当に困った表情を浮かべました。
3人からそれぞれの状況を聞いたSCは、夏目くんに、

何か課題が出されて、それに取り組まなければならないのだけれど、気持ちがそれに向かわなかったときに、自分に対して「やればできる!」と言い聞かせてみたのですね。
そこで“口癖”を試したのは、とてもよかったと思います。
ところで、SCとして夏目くんに、一つ質問したいことがあるのです。

はい、何でしょうか?

夏目くんは「やればできる!」と自分に言い聞かせた後に、何か頭の中で考えたり、心の中で何か別のつぶやきをしたりすることは、なかったですか?
ここ最近「やればできる!」と言ったのに、うまく行かなかった場面を思い出してみて下さい。
そのとき、“口癖”を言った後に、自分の中で何か起きていなかったかどうか、ちょっと振り返ってみてくれませんか?
と、SCは夏目くんにお願いしました。
“口癖”をつぶやいた後に…。
SCからの質問を受けた夏目くんは、しばらく考えた後、最近あったことを話し始めました。

この間、やっぱり課題が出されて、それをやらなければならないときがあったんです。
結構面倒くさい課題だったのですけど、全然わからないものではなかったんです。
ただその時も、課題をやる前に「やればできる!」と言う例の“口癖”を、ちゃんと言ってみたんです。
でも、そのあとふと、「今回の課題だったら、自分はやればできるんだから、別に、今すぐにやらなくても、後でもいいや」と思っていました。
と、照れながら打ち明けてくれました。
これを聞いたSCは、

夏目くん、その気づきはとても重要ですよ。
自分自身に「やればできる!」と言い聞かせることで、夏目くんは自分に「今、やらなければ!」という気持ちを起こそうとはしたのです。
ところがその一方で、「自分はいつでもやればできるんだから、別に今すぐそれに取り組まなくてもいいや」と言う気持ちも、同時に起こしていたのではないでしょうか?
と、夏目くんに尋ねました。
すると夏目くんは、

そうです、そうです。
「やればできる!」と実際に自分の口ではつぶやいていました。
でも、頭の中では、「それを、別に今すぐにやらなくてもいいんじゃないかな?」という考えも浮かんでました。
と言って、夏目くんは何度も深くうなずいていました。
「内言(ないげん)」の悪影響を受けてしまった夏目くん。
SCは3人に向かって、

ブログに書いてあった“内言”の話を覚えていますか?
自分に向かって何かを言い聞かせる言葉や、頭の中で考え事をしているときの言葉、ふと心の中に浮かんでくる言葉、それが“内言”です。
この“内言”は、自分自身への「指示・命令の言葉」でもありました。
ここで皆さんに覚えておいてほしいことがあります。
それは……、
と言って、SCは3人に次の“格言”を提示しました。
人間と言うものは、いろいろと命令されたとしても、自分に対して“最後”に命じられた“言葉”に従ってしまうものである。
と言うものでした。
SCは続けて、

夏目くんの場合、確かに「やればできる!」と言う言葉を、自分に向けて発していましたが、そのあとですぐに、「今すぐでなくても…」と言う“考え”を巡らせていましたね。
そうすると、夏目くんにとってはあとで言った方の「今すぐでなくても…」という「言葉」が、自分自身に向けた“最後”の「指示・命令の内言」になってしまったのだと思います。
こう考えると、自分に最後に発したこの“内言”に従って、「今すぐ課題に取り組まなくてもよい」という“指示・命令”どおりに、夏目くんは行動しただけのことだったのでしょう。
夏目くんに起きていたことを、SCが解説すると、それを聞いた夏目くんは、

なるほど。
自分だけが、“口癖”の効果が出ない変わり者だったと言うわけでは、なかったのですね。
と言って、ほっとした様子を見せました。
“内言”が功を奏した樋口さん。
SCは今度は、樋口さんと芥川くんに対して、質問をしました。

ところで、樋口さんと芥川くんは、例の「やればできる!」の“口癖”を言っただけだったのですか?
それとも、何か他の“言葉”をつぶやいたりしてはいませんでしたか?
これを受けて、樋口さんは、

今、思い返してみると、私は「やればできる!」とつぶやいた後に、「さあ、やろう!」と言う“言葉”を、自分自身に言い聞かせていました。
と言うことは、私の場合、むしろこの「さあ、やろう!」と言うつぶやきの方が、実際には「“指示・命令”の内言」として自分への働きかけになっていたんですね。
と、自分に起きていたことを分析してくれました。
樋口さんの話を聞いていた芥川くんが、少し怪訝(けげん)な顔をしてSCに質問してきました。

自分は、「やればできる!」という“口癖”を言っただけで、特に何もそのあとに言葉が浮かんでくることはなかったです。
でも、前よりは何かに取り組むときの不安感や億劫(おっくう)さは、なかったように感じています。
これは、どういうことなんですか?
これを受けてSCは、

芥川くんの場合は、「口癖にまつわる“ことわざ”」どおりのことが起こったのでしょう。
「やればできる!」という“口癖”が、芥川くんに向けられた最後の“指示・命令”になっていたので、それに従って、芥川くんは前よりもすぐに課題に取り組むようになったのではないでしょうか?
と、芥川くんに解説しました。
芥川くんが“口癖”に加えて、やっていたこととは…。
SCの解説を聞いた芥川くんは、

僕の場合は、新しく使い始めた「やればできる!」と言う“口癖”が、そのまま役に立ったんですね。
でも、そういえば、「やればできる!」と言ったときに、頭の中に「課題が終わって、すっきりした気分になっている自分自身」の“イメージ”が、浮かんでいたことがありました。
これも何か意味があったんですか?
と、SCに訊いてきました。

いやぁー、芥川くん。すごいことに気がつきましたね。
まさに、そうなんです。
何かに取り組むときに、頭や心に浮かんだ“イメージ”も、“内言”と同じように、自分自身への重要な“指示・命令”となるのです。
芥川くんの場合は、課題に取り組むときに「やればできる!」と言う“言葉”と、課題が終わった後のすっきりとした気分でいる自分自身の“イメージ”と言う2つが、芥川くんへの“指示・命令”として、同時に働いていたのでしょう。
その結果、芥川くんは以前よりも嫌な気分を感じないで、自然に課題への取り組みを始められていたのではないでしょうか。
SCは、芥川くんに起きていたことを、このように解釈して伝えました。
“3人”がそれぞれ感想を述べる。
これまでSCの話を聞いて、3人は“口癖”を巡って自分自身に起きていたことを振り返り、最後にこんな感想を述べてくれました。

“内言”は頭の中で巡っている“言葉”で、それが自分自身への「“指示・命令”の言葉」として働くことは、ブログを読んで知っていました。
でも今回SCからの解説で、頭の中では様々な“内言”が次々思い浮かんでしまうため、最後に頭の中に浮かんだ“内言”が、自分への実際の“指示・命令”として働いてしまうことがあると知って、驚きました。
自分に行動を促すような“口癖”をいくら自分自身に言ったとしても、それを言ったそばから、否定する“内言”を頭の中で思い巡らしてしまったら、ダメなんですね。
“内言”て、すごい影響を気づかぬうちに、私たちに与えてしまうんだと分かりました。
これからはもっと、自分が気づかずに発している“内言”に対して、意識を向けていこうと思います。

それに、“言葉”ばかりでなく“イメージ”も、自分の頭の中に自然に浮かんでくるものですから、それも私たちの行動に影響を与えるのですね。
僕の場合は、課題を始める前に「課題が終わった直後に、すっきりしている自分」を“イメージ”したことで、課題を始めるときに気分がよくなってきたため、すぐに課題に取り組めたと言うことが、よくわかりました。
これからも課題に取り掛かるときは、それが終わった後にいい気分に浸っている自分自身を思い浮かべることで、課題に取り掛かりやすくしていこうと思います。
自分自身をいい気分にさせてくれる「自分自身の“イメージ”」を思い浮かべることが、“内言”と同じように、自分への“指示・命令”として働くんだと言うことは、今日の大きな発見です。

今回僕は、自分自身に向けた「“口癖”の言葉」とは違うことを、最後に頭の中に思い浮かべてしまっていたのがまずかったのだと言うことが、よくわかりました。
それに、「課題が終わった後の自分の姿を思い浮かべてみる」ということも、自分を課題に取り組ませることに役立つと言うことが分かって、これも今後は使ってみようと思いました。
SCから「“内言”の働き」について、さらに詳しく教えてもらって、何か僕たちだけ得した気分です。
今日は、時間を取って下さり、ありがとうございました。
また何か疑問に思ったことがあったら、相談室に伺います。
夏目くん、樋口さん、芥川くんの3人は、それぞれ新たな気づきをSCに話してくれました。
そして、3人は何か嬉しそうに教室に戻っていきました。
最後に一言。
今回のブログの中で、
人間と言うものは、いろいろと命令されたとしても、自分に対して“最後”に命じられた“言葉”に従ってしまうものである。
を、“格言”として、ご紹介しました。
この“格言”を、私はとても意義深くとらえています。
と言うのも、「自分を肯定的にとらえたい!」「もっと自信を持ちたい!」と言って、相談室を訪れるクライエントさんにお会いしてお話を伺っていますと、この方々にまさに、この“格言”どおりのことが起きているので、驚かされることがしばしばあります。

確かに、クライエントさんは「ポジティブ、ポジティブ!」とか、「負けるものか!」などといった“言葉”を自分自身に投げかけ、自分自身を変えようと努力されていらっしゃるのです。
しかし、その一方で、「そう言っても、どうせ、そんな風になりっこない!」とか、「でも、それって、本当に自分にできるの?」と言った“ネガティブな言葉”を、頭の中で思い巡らせてしまっていることを、打ち明けて下さったクライアントさんもいらっしゃいました。
すでに、このブログをここまでお読みくださった方なら、十分にご理解いただけたと思いますが、再度ここで強調しておきたいと思います。
それは:
自分自身を「ポジティブな自分」に変えようと思って、「ポジティブな言葉」を“口癖”として自分自身に投げかけていたとしても、その言葉をつぶやいたあとに、自分自身に「ネガティブな言葉」を投げかけていたり、「ネガティブな自分自身のイメージ」を頭の中で巡らしていては、自分を「ポジティブな自分」に変えることはできない。
と言うことです。
この点は、ブログ「言葉の影響2」でお話しした、「自分自身を攻撃してはいけない」と言うこととつながる点でもあります。
自分自身の頭の中で、自分でも気づかぬうちに巡っている“内言”の影響力の大きさに、ぜひとも注目してほしいと思います。
自然に頭の中を巡っている「自分自身に向けての“内言”」に対して、日ごろいから“意識”を向ける習慣を持ち、その“内容”を吟味して、自分を「過度に攻撃する“内言”」を手放していくことを、お勧め致します。